1. はじめに
この文書は、1751年にレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)によって書かれた論文「De la controverse entre Mrs. Leibnitz et Bernoulli sur les logarithmes des nombres négatifs et imaginaires(ライプニッツとベルヌーイの負数と虚数の対数に関する論争について)」の内容を解説します。
18世紀の数学界において、負数と複素数の対数をどのように定義すべきかという問題は、著名な数学者たちの間で激しい論争を引き起こしました。この論争は数学の基礎概念に関わる重要な問題でした。
2. 論争の背景
対数の理論は当時すでに確立されていましたが、負数や複素数(当時は「虚数」と呼ばれていた)の対数については明確な定義がありませんでした。この問題について、ゴットフリート・ライプニッツ(Gottfried Leibniz)とヨハン・ベルヌーイ(Johann Bernoulli)という二人の偉大な数学者が対立する見解を示しました。
3. ベルヌーイの主張
基本的な立場
ベルヌーイは以下のような主張をしました:
根拠となる理由
理由1(微分による論証):
\( \log(-x) \) を微分すると \( \frac{d}{dx}\log(-x) = \frac{-dx}{-x} = \frac{dx}{x} \) となり、これは \( \log(+x) \) の微分と同じである。
理由2(対数曲線の性質):
対数曲線 \( y = \log x \) において、\( x \) 軸に対して対称な二つの分枝を考えると、両方とも同じ対数値を与えるべきである。
理由3(べき乗の性質):
\( p^n = q \) ならば \( n\log p = \log q \) という関係から、負数についても同様の関係が成り立つべきである。
理由4(等式の一般化):
\( (-a)^2 = a^2 \) であるから、\( 2\log(-a) = 2\log(a) \) となり、したがって \( \log(-a) = \log(a) \) である。
4. ライプニッツの反論
基本的な立場
ライプニッツは、負数と複素数の対数は虚数であると主張しました。
根拠となる理由
理由1(級数展開による論証):
\( \log(1+x) \) の級数展開:
\( x = -1 \) を代入すると:
この級数は収束せず、\( \log(-1) \neq 0 \) であることを示している。
理由2(指数関数との関係):
もし \( y = \log x \) なら \( x = e^y \) である。\( e^J \)(\( J \) は実数)が負数になることはないため、負数の対数は実数ではあり得ない。
理由3(一般的な級数の性質):
一般に \( e^y \) の級数展開:
この級数は常に正の値を持つため、\( y \) が実数なら \( e^y > 0 \) である。
5. オイラーによる困難の解決
基本定理の確立
証明の概要
オイラーは超越対数(ハイパーボリック対数)を用いて以下のように証明しました:
\( \omega \) を無限小とすると:
- \( \log(1+\omega) = \omega \)
- \( \log(1+\omega)^2 = 2\omega \)
- 一般に \( \log(1+\omega)^n = n\omega \)
\( x = (1+\omega)^n \) とし、\( n \) を無限大にすると:
この関係から、\( x^{1/n} \) は \( n \) が異なれば異なる値を持つことが示される。
複素数の対数の一般形
任意の複素数 \( a + bi \)(ここで \( a, b \) は実数)に対して:
とすると:
ここで \( k \) は任意の整数である。
6. 複素数の対数の一般理論
オイラーの理論によれば、対数の本質的な性質は以下の通りです:
- 多価性: すべての数は無限個の対数を持つ
- 周期性: 対数の値は \( 2\pi i \) の整数倍だけ異なる
- 統一性: 実数と複素数の対数が同一の枠組みで扱える
7. 実用的な問題と解法
オイラーは理論の応用として、以下のような具体的な問題を提示しました:
問題I: 正数の対数を求める
任意の正数 \( +a \) に対して、すべての対数を求める。
解: \( A \) を \( a \) の実対数とすると:
(\( k = 0, 1, 2, 3, \ldots \))
問題II: 負数の対数を求める
任意の負数 \( -a \) に対って、すべての対数を求める。
解:
問題III: 複素数の対数を求める
任意の複素数 \( a + bi \) に対して、すべての対数を求める。
解:
ここで:
- \( C = \log\sqrt{a^2 + b^2} \)
- \( \phi = \arctan(b/a) \)
問題IV: 与えられた対数に対応する数を求める
ある対数が与えられたとき、それに対応する数を求める。
解: 対数が \( f + gi \) の形で与えられた場合:
8. まとめ
オイラーの解析により、以下のことが明らかになりました:
- 多価性: すべての数(実数・複素数を問わず)は無限個の対数を持つ
- 統一理論: 実数の対数も複素数の対数も同一の枠組みで扱える
- 論争の解決: ベルヌーイとライプニッツの主張はいずれも部分的に正しく、完全な理論では両方の観点が必要
この研究は現代の複素解析の基礎となり、複素数の対数が多価函数であるという重要な概念を確立しました。オイラーの業績は、18世紀数学の論争に明確な解決を与えただけでなく、数学の新しい分野を開拓したという点で極めて重要です。
現代においても、複素対数の理論はフーリエ解析、複素解析、量子力学など様々な分野で重要な役割を果たしています。オイラーが確立した多価性の概念は、リーマン面の理論へと発展し、現代数学の重要な基盤となっています。
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