素数判定は、数学の中でも最も基本的でありながら、数が大きくなると急激に難しくなる問題です。
18世紀の数学者 レオンハルト・オイラー は、この問題を「理論」だけでなく「実際の計算」と結びつけて考えました。
1797年に発表された論文
『Utrum hic numerus 100009 sit primus necne inquiritur』
(「この数 100009 は素数であるか否かを調べる」)は、ただ一つの数を対象にした、極めて珍しい論文です。
主役は、たった一つの数
この論文で調べられるのは、次の数だけです。
$$N = 100009$$
オイラーの関心は、「答えが素数かどうか」そのものよりも、
どうやって、その結論に到達するか
にありました。
まずは「形」を調べる
オイラーは最初に、この数がどのような形に書けるかを考えます。
たとえば、平方数との関係です。
$$316^2 = 99856, \qquad 317^2 = 100489$$
したがって、
$$316^2 < 100009 < 317^2$$
となり、100009 は平方数ではないことが分かります。
これは一見些細ですが、「平方数かどうか」は、その後の判定手順を大きく左右します。
差の形に注目する
次にオイラーは、100009 を
$$100009 = a^2 + r$$
の形で表し、その差 $r$ がどのような性質を持つかを調べていきます。
もし 100009 が合成数であれば、ある平方数との差が特定の形になるはずだ、というのがオイラーの発想です。
論文中では、平方数との差を次々に計算し、
- その差が平方数になるか
- 特定の合同条件を満たすか
を、表を使って丁寧に検証しています。
合成数である可能性を一つずつ排除する
オイラーは、
$$100009 = pq$$
と因数分解できると仮定し、そのときに $p, q$ が満たすべき条件を導きます。
しかし、
- その条件を満たす平方数は現れない
- 想定される割り切れ方はすべて失敗する
ことが、実際の計算によって示されていきます。
重要なのは、「調べた結果ダメだった」ではなく、「なぜダメだと分かるか」 が逐一説明されている点です。
計算過程を隠さない論文
この論文の特徴は、計算結果だけでなく、
- 差の表
- 中間計算
- 試された数の一覧
が、そのまま掲載されていることです。
これは単なる結論報告ではなく、
「この方法で、確かに素数だと確認した」という検証の記録
でもあります。
なぜ、ここまで丁寧なのか
オイラーにとって、素数判定は抽象的な遊びではありませんでした。
- フェルマー数の研究
- 数の分解理論
- 不定方程式の解の存在
こうした問題では、「その数が素数かどうか」が決定的な意味を持ちます。
だからこそ、一つの具体例を、完全にやり切る必要があったのです。
数学史的な意味
この論文は、
- 素数判定を「手続き」として示した例
- 18世紀の計算数学の実像
- 理論と計算が分離していなかった時代の数学
を知るうえで、非常に貴重です。
現代ではコンピュータが一瞬で判断する問題を、人間の思考と手計算だけで解き切る。その姿勢こそが、この論文の最大の魅力でしょう。







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