素数は「割り切れない数」と定義されますが、その性質を理解するには、個々に調べるだけでは限界があります。
18世紀の数学者 レオンハルト・オイラー は、この問題に対して、非常に大胆で実践的な方法を取りました。
1775年に発表された論文
『De tabula numerorum primorum usque ad millionem et ultra continuanda, in qua simul omnium numerorum non primorum minimi divisores exprimantur』
(「100万およびそれ以上にわたる素数表について。そこでは同時に、すべての合成数の最小の約数も示される」)は、素数を理論ではなく”表”として把握しようとする試みです。
単なる素数表ではない
この論文で構想されているのは、よくある「素数一覧」ではありません。
オイラーが目指した表には、
- 素数である数
- 合成数である数
- その合成数の 最小の約数
が、同時に書き込まれます。
つまりこの表を見れば、
「この数は素数か?」「もし違うなら、どの数で割れるのか?」
が一目で分かるようになっています。
数を「形」で並べる
オイラーは数を無秩序に並べるのではなく、次のような形に注目します。
$$30a + r \qquad (r = 1, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29)$$
2・3・5 で割り切れる数を最初から除外すると、素数の候補はこの8つの形に限られる、という事実を利用しているのです。
この整理によって、
- 調べるべき数の量を大幅に減らし
- 表の構造自体に意味を持たせる
ことが可能になります。
表は「計算の結果」ではなく「道具」
この論文の重要な点は、表が完成品ではなく、継続可能な道具として設計されていることです。
オイラーは、
- どのように表を拡張するか
- 新しい数をどこに書き加えるか
- 約数の情報をどう更新するか
を、文章と具体例で丁寧に説明しています。
つまりこの論文は、
素数表そのもの + 素数表の「作り方マニュアル」
になっているのです。
なぜ100万まで必要だったのか
オイラーにとって、素数表は単なる好奇心の産物ではありません。
- 巨大数の素数判定
- フェルマー数の検討
- 数の分解や不定方程式の研究
こうした問題では、信頼できる素数データが不可欠でした。
だからこそ彼は、「理論的に正しい」だけでなく「実際に使える」表を必要としたのです。
数学史的な意味
この論文は、
- 素数研究が「理論」と「計算」の両輪で進んでいたこと
- 18世紀におけるデータ整理の発想
- 現代のアルゴリズム的思考につながる視点
を、はっきりと示しています。
コンピュータのない時代に、人間の思考で扱える最大規模を本気で追求した仕事だと言えるでしょう。







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